耳納山麓農業水利事業の要、合所ダム
田主丸の水田地帯/刈入れ風景
水辺の教室(水の文化リレー)
久留米大学附設中ヒナモロコ増殖水田の作業
里親が増やしたヒナモロコの放流
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従来の普及システムの中で、環境保全型農業を推進することが困難なことを自覚した私は、それを実践するために、「耳納塾」を立ち上げた。環境保全が重要だという認識は多くの人々に共有され、農業、農村が多くの問題を抱えていることも周知のことだ。しかし、当時の制度では、普及も含めて、行政がそれらの問題を有機的に結びつけて解決する方法がなかった。
環境保全型農業は、これまでの農業のあり方や発想を大きく変えるものである。そのため、それを実現するための制度は全く整備されていない。道具や制度がない中で、この重要な課題を果たしていかなければならないのである。国際化が急速に進展していく中で、農家は窮地に追い込まれ農村の疲弊は極限に達している。制度が整うのを待つ余裕はない。道具は自分で作り、環境も自分で整備していくしかない。私は、海外の環境保全型農業の実態を調査し、農政の中での環境保全型農業の位置づけを行い、自ら多面的機能のモデルを作り実践していくことにした。
イギリスには、グラウンドワーク・トラスト協会という組織がある。グラウンドワークは、人間の社会活動と自然環境の保全との調和を図るために、地域の住民、行政、企業が協力して生活に身近な場の環境改善を進める活動である。地域の環境問題について住民の関心を高め、環境理解のための研修、及び環境改善活動への参加の機会を提供し、その効果が地域にふさわしく、しかもこの成果が持続するような仕組みづくりを行う。また、地域環境を改善することで、よりよい環境の下での就業環境をつくり、地域への新規の投資を促進して経済の活性化に寄与する。また企業の環境パフォーマンスの改善を支援し、地域の一員としての企業の社会的イメージの向上を支援する。さらに自然資源の保全を通して、地域の活動を地球環境問題解決の足掛かりとし、また、トラストは地域のパートナーと協力して、より健全なライフスタイルのためのプログラムを用意する。
しかし、日本には、このような組織が育っていない。日本においても社会の成熟とともに住民と行政、企業や学校、団体と有機的に飛び回る柔軟に対応できる組織(人材)が必要となってくるだろう。しかし、現段階では、地方が抱える問題を提示し、実践活動を通して行政に働きかける組織はない。
そのために、私は「耳納塾」を結成することにしたのである。この塾は、住みやすい地域づくりと地域課題の解決を目標とし、様々な職種からなる会員が専門的な情報や助言をもちよりこの目標を達成する。
「耳納塾」では、ここ数年来、絶滅に瀕した名もない淡水魚ヒナモロコに焦点を当ててきた。初めは誰もヒナモロコの名前すら知らなかった。生息地も三年間不明で、塾はその探索から始めた。すると、小学生が、小さな農業水路でこのヒナモロコを発見したのである。一週間後に迫っていた水路工事は、みんなの願いで多自然型水路に切り替えられた。ほおっておけばすぐに絶滅してしまう淡水魚であったが、子どもたちや地域住民が協力し、農家の理解を得て、県内で初めて多自然型の農業水路が作られたのである。その後近隣の住民のボランティアによる水路の泥あげや保全作業が行われ、さらにヒナモロコ保存会が三地区に結成された。このヒナモロコをシンボルとした環境保全型農業のシステム作りは、農林行政も含め行政内外から高い評価を得た。
(高山賢治「日本農業普及学会」大会資料より) |